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「攻殻機動隊 新劇場版」2015年公開!
『攻殻機動隊ARISE border:4』舞台挨拶で明らかに

日本アニメを代表するSF作品として、国内外のアニメファンの誰もが知る攻殻機動隊。

なかでも『攻殻機動隊ARISE』4部作は、草薙素子を筆頭に、いつも胸の空く活躍を見せてくれる内務省所属の攻性機関「公安9課」が、犯罪を未然に防ぐ屈指のチームとして、どのような経緯を経て結成されるに至ったのか?
その秘密が余すところなく描かれ、攻殻機動隊全シリーズを通しても、必見のエピソード1と云える作品に仕上がっている。

このほど、そんなARISEの完結章となる『攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stands Alone』の初日舞台挨拶に、主役の草薙素子役を演じた坂本真綾さん、エマ役の茅野愛衣さん、ブリンダジュニア役の小野賢章さん、本作品の総監督であり キャラクターデザインを手掛けた黄瀬和哉氏、シリーズを通して構成・脚本を担った冲方丁氏、そしてborder:4監督の工藤進氏の総勢6人が集結した。

舞台挨拶は、黄瀬監督の「ARISEは、2013年から2014年の2年間を掛けて4本の連作を通して完結に至るシリーズ作品のため、こんなにたくさんの 方々に観て頂けるとは思っていなかった。本当に嬉しいです。」という感謝のコメントから始まり、さらに最後には、攻殻機動隊の映像作品を生み・育んできた プロダクション・アイジー社長の石川光久氏から、「攻殻機動隊」の新作となる長編劇場版の2015年公開がサプライズ発表されるなど、世界のアニメファン にとって華々しく、かつ攻殻機動隊シリーズの新たな展開に想いを馳せることができる特別なものとなった。

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歴代の攻殻作品に負けないものが出来たと思います。

ー まず最終章の監督を担われた工藤監督よりひと言お願いします。
【工藤監督】 border:4が無事公開の日を迎え肩の荷が降りました。今回border:4の監督に選ばれた時点で、ARISEシリーズの反響を耳にしていましたから、歴代作品に負けないように「頑張ろう」という気持ちで一杯でした。

実際の仕上がりは、作品をご覧頂いたファンの方々の感想次第ですが、私としては、歴代作品に負けないものが出来たと思いますし、それを攻殻ファンの皆様に感じ取って頂けたなら心から嬉しいです。(満場の劇場内から大きな拍手)

光学迷彩のアクション実施はシリーズを通した筋書きの中で
ー ARISEの歴代作品と云えば、このシリーズ最終章に至る過程の中で、素子が光学迷彩を着る場面がなかなか登場しませんでしたが、これはシリーズを通した筋書き造りなどの背景があったのでしょうか?
【黄瀬総監督】 実は光学迷彩は予算の関係でして…(^_^;)。

ー えっ?予算ってARISEシリーズの「CG制作予算」のことではないですよね?(笑)
【黄瀬総監督】 ARISEシリーズの最終章であるborder:4に至るまで、まだ内務省の荒巻が管轄する公安9課の体制造りが固まらず、装具の予算が確保出来なかったという設定でした。

攻殻機動隊は未来の舞台設定ではあるのですが、それでも「光学迷彩は高価な装具であろう」ということで、素子が光学迷彩を着るシーンは、「シリーズ終盤まで待とう」ということになりました。

 ARISEと過去の旧シリーズとの橋渡しをやろうという気持ち

ー なるほどシリーズを通して綿密なストーリーの組立があったのですね。
【黄瀬総監督】 はい。実際には個々の作品毎にテーマがあって、border:1はサスペンス、border:2はアクション、border:3はラブストーリー、そしてborder:4は旧作へのオマージュという想いを込めています。
【冲方】 今回はそれを受けて、ARISEと過去の旧シリーズとの橋渡しをやろうという気持ちで取り組んだのです。

ー それはどのようなことなのでしょうか?
【冲方】 例えば一般的に想定される「攻殻機動隊と云えば、このシーンだろう」というものや、「攻殻ファンの記憶に残っている象徴的なシーン」をすべて洗い出し、どのようにborder:4に入れていくかを考えたのです。

ー 具体的には?
【冲方】 会議の場で、どのシーンをborder:4に入れるべきかと云うディスカッションを重ね、攻殻らしいシーンとはどのような場面であるのか、過去の作品の中でどのシーンを入れていくかを、じっくり時間をかけて検討しました。

そして過去の作品から攻殻ファンが期待するシーンを踏襲しながらも、本来なら、素子たち公安9課のメンバーが格好良く決めるフォーメーションが、ことごと く失敗する場面を考えるなど、チームの完成度が足りなさを映像表現に入れ込みながら、旧来の攻殻機動隊らしさを併せて出していこうとしたのです。

こうしてまだ完成度が少し足りない公安9課のメンバーが、次第に成長していく様や、素の人間としての素子の成長過程を、時計の針を引き戻して描くことにより旧シリーズにつながるようにしたのです。

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「おはようございます」の後に「萌えますねー」という会話

ー ビルからのダイブで素子がうまく着地できないシーンを観て、坂本さんもそうした構想を感じ取っていらしたのですか?

【坂本】 はい。border:4の制作段階で、完成前の映像をアフレコ前の予習として観る機会があってその時、素子がビルの屋上に立っているシーンを見て「もしや飛ぶ?」という期待感を持ちましたね。

そしてそこから実際に素子がダイブした時は「キター(・∀・)」という気持ちと、その後「オットー\(゜o゜)」という気持ちが交錯する場面になり、このシーンはborder:4の中でも私も好きなシーンのひとつになりました。

ー 成長していく過程にワクワク感があるということですね?
【坂本】 ほかにもロジコマの動き方だったり、バトーと素子が背中合わせで会話するシーンなど、それだけで「キター(・∀・)」という気持ちで一杯でした(笑)。

実際のアフレコの時は、バトー役の松田健一郎さんとお逢いする度に「おはようございます」の後に「萌えますねー」っていう会話をいつもした程です(笑)。 今までの流れを知っていると、「アー(・O・;ここからあそこの場面につながっていたのか)というシーンが映像やシナリオの随所に沢山あるんです。

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信頼関係からホンモノの公安9課が出来上がっていく

ー シナリオと云えば、border:4のシーンでは原作とは異なる場面があるとか?
【冲方】 先程、坂本さんが話された「素子が501機関の通路のところで、バトーと背中合わせになる」直前のシーンなのですが、ここで素子とバトーは、お互いの銃を交換しています。

ここで本来のシナリオ上では、自分の銃を撃ち尽くした素子に対して、バトーが弾の入った弾倉を投げ渡し、それをジャンプして受け取った素子が空中で自分の銃にその弾倉を叩き込むというシーンがありました。

ー 緊迫の「燃えシーン」ですね。
【冲方】 しかし絵コンテを描いていく段階で、原作の設定上、ふたりが同じ銃を持っておらず弾倉を交換出来ない事が発覚、またその場面で素子が片手を使え ない状態になっていたことから、バトーが自分の銃を素子に投げるというシーンを表現することで、ふたりの信頼関係が表現できないかと考えました。

ー そうしたストーリー展開の中で、ホンモノの公安9課が出来上がっていくという訳ですね。 【冲方】 劇場特典版にご用意したシナリオと劇場作品をご覧頂き、その違いを是非確認して頂ければと思います(笑)。

素の人間の素子を掘り下げ、時計の針を引き戻す

ー 冲方さんは過去4回の舞台挨拶で、作品の宣伝がメチャクチャとっても上手になりましたね(笑)。 【黄瀬総監督】 シナリオばかりではなく、今回の作品作りではARISE4部作の大きなプランに従って、攻殻機動隊の中の素子という存在を、あらためてリビルドしていきました。

本来の攻殻ファンにとっては、素子を筆頭に登場するキャラクターは、常に不変であって欲しいと考えて下さっていると思います。しかし…。

ー 変えていないとキャラクターの存在が作品造りを固定化してしまうということですか?
【黄瀬総監督】 あまりにキャラが固定化されてしまった場合、極論を言うと「サイバー犯罪に対して最強の素子が存在している」というだけで「事件が起こる こと自体が変だ」という状況まで行ってしまう。そこでARISEシリーズでは、素の人間の素子を掘り下げ、時計の針を引き戻していったのです。

まだ不完全だった時代の素子を描いていく中での役作り

ー そんな今シリーズの人間素子について、坂本さんも感じることがありましたか? 【坂本】 歴代の攻殻機動隊をファンとして見つめてきた私としては、素子は「ものすごく完璧な女性」というイメージがありました。

だから私自身、このお仕事のオファーをお受けした時、「どのように完璧な素子を演じていけば良いのか」それをイメージするのがとても難しかった。

けれど、実際にこのお仕事に取り組んでいくにあたっては、まだ不完全だった時代の素子を描いていくということで、私自身「なるほどな」と思いましたし、そんな素子の姿を見てみたいという気持ちもあって、ARISEではとても演じ甲斐のある役柄に出逢えたと思っています。

ー 成長していく素子の存在を演じてみたいと。

【坂本】 どんなものも、完璧なものは美しく素敵ですが、今回、素子がそんな完璧な美しさをどうやって獲得することが出来たのかという源流を知ることが出 来て、私自身、素子に対する想いが深まりました。ですからARISEを通して、攻殻機動隊に対する愛情が増したなぁと感じます。

ARISEシリーズでの素子は、border:1で完全にひとりの存在から始まりました。
けれども最終章のborder4では、病院から出てきた素子を9課の仲間が「出待ち」をしていて、まんざらでもないように「何よ」というような台詞をいっ たりしながら、素子も喜んでいるな、自分がチームの一員であることに居心地の良さを感じ始めたなと思える作品だったと思っています。

ー 最後は公安9課のチームが出来たところでまとめたと…。
【工藤監督】 先の階段の場面で、階段の上からメンバーを俯瞰した映像表現で、公安9課のチームがまとまった雰囲気を出せたと思っています。

成長していく素子に未来の疑問を投げかける存在として

ー そんな成長の過程を描く最終章で登場したのがエマとブリンダジュニアなのですね。
【黄瀬総監督】 新しいキャラクターの存在については、志郎さんが元々持っていたアイディアがありました。それがエマなのですが、そこからブリンダジュニアとのダブルゴーストに落ち着いたのは、border:4の構想を組み立て始めて以降だいぶ後のことでしたね。

これまでARISEのシリーズには、素子と対の存在となる少女的なキャラクターをこれまで登場させていなかった経緯があるので、今回「このキャラクターを本当に出していくのか」ということについては、作品の制作過程で議論がありました。

ー しかし結果的にあの形にまとまったと…。
【冲方】 成長していく素子にぶつける存在として、また未来に対して何らかの可能性や、疑問を投げかける存在して登場させようと決めました。

初めて聞く内容に茅野さんと小野さんが驚く

ー かなり深いお話になってきましたが、エマ役の茅野さんとブリンダジュニア役の小野さんにとっては初めて聞く内容があるかもしれませんね。

【茅野】 はい。初耳なこともありました。びっくりです。
実際アフレコの時にも、エマはこういうキャラクターで、こういう設定ですといった部分については、今回ほど深いお話は頂けていなかったんです。

場合によっては台本の内容を自分でネット調べることがあった位です(笑)。小野さんがブリンダジュニアを演じられるということも最初は知らず、アフレコも別々に収録していたので、「オノさんって、どのオノさんなんだろうって(笑)。

作品的にはお互いに心がつながっているというキャラクター設定にも関わらず、お仕事の都合もあって、私か先に収録して、「小野さんに後は宜しくお願いします」という形になってしまいました。

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未体験のシーンや役作りを克服していく

ー 小野さんにとっても未体験な部分がありましたか?
【小野】 border:4での僕のいちばん最初のセリフは、女性の口から出てくるセリフで、まずこれ自体が僕にとってはとてもレアな経験でしたし (笑)、また本編の設定上のブリンダジュニアは32歳で、自身の実年齢よりも上の役柄は実は初めてのことだったので、試行錯誤というか、どういう風に役に 入っていくかをかなり悩みました。

ー 映画のパンフレットに出ている音響監督の岩浪美和さんコメントが何だか凄いですね。萱野さんの「音声の波形が綺麗」という話から始まっていて、「肉体を超えた悲痛な想いが伝わる」とか、でも実際の収録前の役作りでも、そんな悲痛なエピソードがあったのですね。
【小野】 悩んだ末、もう思い切って現場でチャレンジしようと考え、先に収録を終えた茅野さんが引いて頂いたレールの上を歩くことに専念しました。そのことで作品に集中出来たのが良かったのかも知れません。その節はどうもありがとうございました(と茅野さんにお辞儀)。
【茅野】 小野さんもお疲れ様でした(と小野さんへお辞儀を返す)。
【冲方】 なんかめっちゃ初対面みたいに見えちゃうよ(笑)。

新劇場版で攻殻機動隊のさらなる進化をお見せします

ー プロジェクト・アイジーの石川社長から、会場の皆さんにお伝えしたいことあるそうなので読み上げます。実はそのコメント内容に制作の皆さんが「イラっとするポイント」があるみたいです(笑)。

【石川光久社長】 志郎正宗による攻殻機動隊が誕生してから25年。志郎正宗の世界を押井守監督が表現したGHOST IN THE SHELLから20年。この歴史はプロダクションIGの挑戦と成長の歴史でもありました。そしてこの歴史に続く攻殻機動隊新劇場版に挑戦することをここで 発表致します。新劇場版で攻殻機動隊のさらなる進化をお見せします。ニューヨークより石川久光。

【黄瀬総監督】 僕が思うに今頃、石川は全米オープンのテニスの試合を見ていますよ。だって「伊達公子のチケットが手に入りました」って聞きましたからね…でも仕事しろよ(笑)。

ー 2015年のいつ頃始まるかは、今後の情報に注目して頂きたいと思います。他には。
【黄瀬総監督】 講談社さんから、「攻殻機動隊小説アンソロジー、プロジェクト」が始まります。攻殻機動隊・電脳・擬態・○○のタイトルで短編小説を募って一冊の本にするプロジェクトです。詳細は当プロジェクト詳細をご覧ください。
『攻殻機動隊』小説アンソロジー、プロジェクト起動! 詳細はこちら

ー 最後に坂本さんからひと言お願いします。
【坂本】 皆様ARISEシリーズを見守ってくださって本当にありがとうございます。border:4まで振り返ってみればあっという間に駆け抜けた感じがします。

攻殻機動隊の公安9課のチームがすごく良い雰囲気で始まっていく姿を観ることができて私も嬉しいですし、みんなが成長していく過程を見られたことで自分まで成長していく彼等と近しい人間になれた気がしています。是非、何度でもborder:4を観て楽しんでください。

テキスト:S上
フォト:T野